第34章 嵐到来
「父も私も元就様の意見に全面的に賛同しているわけではありません。此度の祝賀会も、出来ることならば織田様と和平を結びこの世を平らかにしたいと思いこうして京にも出てきた所存」
「ならばなぜ空良を攫った?」
「っ........、選ばれる自信があったんです」
「何の話だ?」
「.........っ、以前京で信長様をお見かけして以来、私は本当に信長様をお慕いしておりました。信長様を思う気持ちも、家柄も容姿も、誰にも負けていない自信がありました。.......絶対に私が選ばれると思っておりましたのに.........なのにあんな.......何も持たぬただの小娘に貴方は夢中で.....悔しくて........」
「それで、毛利に泣きついたと言うのか?」
そんな下らぬ嫉妬心で!?
「あんな娘、どこか外国にでも売り飛ばされてしまえばと思い、元就様に文を出した所、直ぐに返事をもらいました」
「元就は何と?」
「あの娘は、さる高貴な方がかねてより側女にしたいと所望していた娘にて、その方を連れて京へ登ると、信長様の慌てふためく顔を見てこの日ノ本を戦火の渦に巻き込むのだと......」
女が言葉を言い終えると同時に、ドクンっと、心の臓が嫌な音を立てた。
「空良を.......何と申した?」
「信長様っ!」
光秀も顔を強張らせ息を呑んだ。
「もしや空良を、15代将軍足利義昭に引き渡すと言うのか!?」
「ひっ!しょっ、将軍とまでは聞いておりません!鞆の浦に幽閉された高貴な方としか......」
鞆の浦.........その地は、俺に京を追いやられた義昭が逃げ住んだ所。
「ここまで分かれば貴様に用はない。光秀」
「はっ!」
「女を連れ出せ」
「はっ!」
「まっ、待って下さい信長様っ!私は心から貴方様をお慕いしております。今一度私に........」
「黙れっ!」
「..............ひっ、」
「俺は、貴様の名すら知らん。だが貴様が空良を貶めた事、決して忘れはせぬ。命だけは助けてやる、今すぐ去れ、そして二度と俺の前に姿を見せるなっ!」
女は、生気の抜けたような顔で部屋から引きずり出されて行った。