第34章 嵐到来
「言いたい事はそれだけか?」
「えっ!?」
「何も知らぬなら貴様にもう用はない。言い訳なら、冥土で好きなだけほざくが良い」
空良が、こんな事を望まぬ事は頭では分かっている。
だが俺は、空良が味わった恐怖や屈辱以上のものをこの女に味合わせてやりたいっ!
怒りに身を任せ刀を再び振り上げた時、
「わっ、私はただ命じられた通りに動いただけの事!本当ですっ!」
女はついに、口を開いた。
「.......貴様の知る事、全て話せ!嘘偽りを申せば、その首瞬時に転がり落ちると思え」
己自信、聞いた事がないほどに怒気をはらむ声で女に牽制をかけると、俺は刀を鞘へ収めた。
「して、貴様は一体何者だ?」
「.........っ、私は、毛利家に代々使える家臣の娘で、此度の信長様との婚姻による和議の件で、他の候補の姫君達に年端も近いことから選ばれここへ来ました」
「毛利元就が生きていると言うのは真か?」
「.......っ、それは.....本当です。表向きの政治は私の父が毛利を名乗り取り行っておりますが、真の実権を握っているのは毛利元就様です」
「生きておるのであれば隠す必要も無かろう。何故その様な事を」
「詳しい事は私には分かりません。ただ、その方が自由に動けるとか.....、普段は海賊に扮しており私もお姿を拝見した事はございませんので......」
「毛利が生きている事は理解した。だがそれと空良の失踪とどう繋がると言うのだ?」
理由はどうあれ影武者を立てる事など珍しい事ではない。毛利は元々水軍を自在に操る海上戦を得意とする一族、身軽に行動する為にもと言う理由も十分に理解できる。だが何故ここへ来て空良を攫う必要がある?
「それは.........この日ノ本を混乱に陥れる為だと.....」
「はっ?」
「派手に大きな戦がしたいと..........」
「狂っておるな」
俺も、うつけだ、頭がおかしいと散々言われてきたが.......毛利元就もかなりなうつけと見た。