第34章 嵐到来
「今の毛利家には、姫君はおられません」
「嘘よっ!」
女は分かりやすく取り乱し、声を荒げだ。
「女、命が惜しくば少し黙っていろ。.....麻、分かるように話せ」
「...........っ、」
時間が惜しい、早く真相に辿り着きたい。
「は!...今の毛利は長らく当主不在状態で、その家を代々守って来た重臣の男が、名代として毛利を名乗り此度の会合にも出席しております。そこにいる姫君は恐らく、その名代の者のご息女であられると。名前も一致しております」
「では、俺が京で会っていた男は、毛利の当主ではなく、別に本物がいると言う事か?」
「はい」
「それは誰だ?」
「毛利元就かと、思われます」
「は?」
良く知る名ではあったが、耳を疑った。
「毛利元就って、あの謀神って言われてた....?でも確か死んだんじゃ......」
家康も驚きを隠せずに口を開いた。
「それが、どうやら生きている様です」
麻が調べ上げた事に間違いはないのであろうが......生きていたのならば何故そんな事をする必要がある?
「おい女、今の話に間違いはないな?」
固まったまま膝をついて一点を見つめる毛利の女に視線を落とした。
「.....私は、何も知りません」
この期に及んで女はシラを切るつもりらしい。
「私は無実ですっ!この女は嘘をついておりますっ!即刻処分して下さいませっ!昨夜に引き続き二度の狼藉、毛利はこの所業、決して許しませ........」
女が言葉を言い終わる前に、俺は刀を抜き女に向かって斬りつけた。
「...........え?」
呆然とする女の横髪が一房パサっと床に落ちた。
「女、....戦場以外で俺に刀を抜かせた事、褒めてやる」
これ程に、誰かを憎いと思った事はない。
目の前の女が空良を、愛しい女を危険に晒したと言う事実に、はらわたは煮え繰り返り、怒りが溢れ出てくる。
「..........ひっ!私は本当に何も......」
女は腰を抜かし床に尻もちをつきながら、身の潔白を更に主張する。