第34章 嵐到来
「にしても、何故急に裏門から外になど..........」
家康が疑問を口にする。
「そうだな」
あれほど気をつけろと日々言い聞かせて来たし、空良自身が一番気をつけていたはずだ......
「それが、見ていた僧侶の話によると、急に市場に買いものに行くと言って、麻の呼びかけにも応じず一人で飛び出して行ったそうです」
「市場に?解せぬ.......何故だ?」
何も欲しがらぬ、無欲な奴を何がそれ程惹きつけた?
「恐れながら、ここからは私に説明をさせて下さい」
髪を乱し、息を切らした麻が、部屋へと戻って来た。
「麻っ!戻ったか」
「はっ!遅くなり申し訳ありません。空良様の無事と場所の確認ができましたので、一旦他の見張りを立て、戻りました」
「よく戻った、空良は無事か?」
「はっ、ここからそう遠くない旅籠に。今はまだ攫われた際の首への峰打ちが効いて気を失っておりました。他に傷つけられたご様子はございません」
「........そうか」
あの細首に、手練れの峰打ちを受けただけでも、奴にはかなりな痛手だ。
だがそのまま気を失っていろ、その間に貴様を救い出す。
「して、攫ったのは誰だ?」
「それについては、このお方から直接お話を......」
麻はそう言って後ろを振り返った。
「?」(何だ?)
「離してっ!私を誰だと!離しなさいっ!」
麻の背後で光秀の家臣に両手を背後に掴まれジタバタと叫んでいるのは、三姫の一人で、毛利から来た女だ。
「貴様は毛利の......、この女が如何した?」
昨夜の所業で女どもは皆各々の屋敷へと帰ったものと思っておったが....
「こちらの毛利の姫が、此度の空良様失踪に関わってると思われます。恐らく......昨日のマムシの件もそうでしょう」
「何?」
どくんっと、怒りを呼び覚ます様に鼓動が脈打つ。
「なっ、何を根拠にっ!」
女は麻を睨み噛みついたが、麻は気にも止めず言葉を続けた。
「ここに来てから、あなた方三姫の事は隈なく調べさせてもらいました。貴方様以外のお二方には何の問題もありませんでしたが、貴方様については、おかしな事が分かったんです」
「な、何よ」
女は、麻の言葉にわずかな焦りを滲ませた。