第34章 嵐到来
「して家康、貴様はただ嫌味を言いに来ただけか?」
空良の事になると、皆何故か放ってはおけなくなる。あの光秀でさえ、今朝は俺に嫌味を言いに来おった。
「あ、いえ....... 空良の事で気になる事がありまして......何かあの子から聞いてますか?」
「?.........いや、昨晩は貴様も知っての通り、三姫との事があり、奴とはあまり言葉を交わしておらん」
奴の折れそうに細い手首に付いた縛り痕と、白くて柔らかな肌に無数に付けられた痕を、今朝は直視出来なかった。
泣いて怯える空良を、力づくで抱いた痕を.....
「空良がどうしたと言うのだ?..........いや待て、確か今夜話があると、今朝そう言っておった」
「何だ、じゃあそれは空良本人から聞いて下さい」
強張っていた家康の顔が少し安堵で弛んだ。
「言われずとも本人から聞くが、貴様が俺よりも先に知っておるのは気に入らん。今すぐ忘れろ」
「はぁ?」
こんな些細な事でも俺は嫉妬で気が狂いそうになる程、心は空良で埋め尽くされている。
「っ、何言ってんですか?第一、俺も本人に確かめたわけじゃないので、空良の話と俺の考えが一緒とは限りません」
「なら良い。それ以上は何も言うな」
今宵は、奴の話を聞きながらゆるりと過ごして、優しく抱きしめて眠ってやる。
「その前に、三姫の事にケリをつける」
そして早々に安土へ戻り、誰が何と言おうと空良を妻に迎える。もう十分に、世間は俺が空良しか見えておらん事を理解したはずだ。
「空良の護衛をくれぐれも怠るな。では行ってくる」
今宵空良とのひと時に思いを馳せ玄関を出て馬に跨った時、
「信長様っ、お待ち下さいっ!」
光秀が、息を切らして走って来た。