第34章 嵐到来
空良を部屋へと帰した後、俺は朝廷主催の鷹狩りに行く支度を整え寺の門へと向かっていた。
こんな行事に付き合う事自体が今の俺には無意味だが、朝廷からは、早朝既に昨夜の事を説明する様にとの書状が届いており、これから向かう鷹狩りにて三姫の事はケリをつける事になるであろう。それにより、此度の和議に向けての取り組みは白紙に戻る事は火を見るよりも明らかであった。
だが、そんな事は大したことではない。
策はいくらでもある。
それよりも、また空良を傷つけ泣かせた。
昨夜の、傷つき涙を流した奴の顔が頭から離れない。
「.......もう泣かさぬと決めておったのに」
一体、何度奴を泣かせれば俺は.......
「空良の事ですか?」
ふと漏らした言葉に背後から答える者の声。
「.........家康か。......何だ、貴様も昨夜の事で嫌味を言いに来たのか?」
付き合いの長いこやつの事は、顔を見れば何を言いたいかはすぐ分かる。
「別に......でもいつもの余裕な信長様らしくないですね。こんな事をすれば空良が益々嫌がらせを受け立場が悪くなると分かってるでしょうに」
「ふん、俺が余裕か........」
余裕など、空良を前にすると途端になくなる。初めて奴を抱いた夜からずっとそうだ。欲も、嫉妬も、何もかもが抑えられなくなる。この手に抱いているのに、身も心も俺のものにしたはずなのに、しかと捕まえておかねば消えていなくなりそうな焦燥感に常に駆られている。
「愛おしい気持ちとは、残酷なものだな」
「はぁ?」
大切に、この手で守ってやりたいと思えば思うほど、奴を傷つけ追い詰める。
上手く伝わらないこの思いを、奴を抱く事でしか伝えられない。あの小さな身体で必死に俺を受け止める空良を、この世の誰よりも俺の手で幸せにしてやりたいのに.........