第32章 暗雲
そしてまた、新しい朝が来た。
目覚めれば、信長様の腕の中。
これがもう当たり前になっているけど、この当たり前の幸せを私は昨夜、ううん、三日も手放そうとしてた事に気がついた。
昨夜はあんなに怒られてとても怖かったけど、間違いを犯す事を止めてくれた信長様に、やはり感謝しかない。
「もう決して、離しません」
きっとまた決意は砕かれる時があるかもしれないけど、私は新たな決意を胸に、私を抱きしめて眠る信長様の腕に口づけた。
「離れたいと言っても離さん」
眠りの浅い愛しい人は、きゅっと腕に力を込めて返事をくれた。
「空良」
「はい」
「飯が食べたい」
「え?朝餉ですか?それならばすぐに用意を.......」
「阿保、朝餉ではない」
布団の中で慌てる私の身体を、信長様は脚を巻き付けて止めると、かぷっと悪戯に耳を甘噛みした。
「っ、」
「今宵は、貴様の作った飯が食いたい」
「はっ、はいっ。何か、ご希望などはありますか?」
「いや、何でも........ああ、出汁は飲みたい。貴様の出汁は一番美味い」
「っ、ありがとうございます」
「後は、貴様を食せれば何もいらん。今宵も腹一杯、貴様を味わうとする」
耳にかかる吐息が無駄に私の熱を煽る。
「だ、だからそれは困ります」
「ふっ、貴様は困りはせぬ」
「んっ、」
ちゅっと、触れるだけの口づけをしてすぐに離れた唇は、愉しそうに弧を描いている。
私も、今夜がいいのかもしれない。
「信長様......」
「どうした?」
「私も信長様にお伝えしたい事があります」
今夜、このお腹の子の事を話そう。
「何だ?もったいぶらずに今話せばいいものを」
信長様は片眉を上げて私を怪しげに見る。
「ふふっ、夜までのお楽しみにしてて下さい。でも、どんな話でも、驚かないで下さいね?」
「ふんっ、焦らしおって、......だがよかろう、夜まで待ってやる」
逞しい腕に抱きしめられると、情熱的な口づけをされた。
昨夜の出来事が嘘の様に私は信長様の愛情で満たされる。
悲しい事も、辛いことも、全てはあなたを愛するために必要な事。
あなたの事を、誰よりも愛してる。