第32章 暗雲
「っ、.....今朝、三姫様がお部屋にいらして、信長様とお話しをしたいと申されたので.......私も、一度きちんとお話をされた方がいいと思い......」
「それで、俺があの者達と交わる事を了承したと言うのか!?」
「なっ!そんな事は了承しておりませんっ!お話をお一人づつされるとっ、んっ、.........やっ、....いたっ!」
紐を解いている途中で緩み始めていた襦袢の袷を強引に開いた信長様は、私の胸に強く痕を付けた。
「っ、..........信長様.............?」
頭が混乱して纏まらない........
三姫達は、信長様に夜伽を迫ったって事?
考えに集中したいのに、胸に付けられた痕がじわじわと僅かな痛みを訴えていて、それがまるで信長様の怒りの様で、幾度となく付けられて来た痕がこんなにも冷たく痛く疼いたのは初めてで、自然と涙が出た。
「っ、なぜ泣く?貴様の望んだ事であろう?」
声を耐えて涙を流す私を、信長様はさらに追い詰める。
「ちっ、違いますっ!っく、こんな事を望んだ訳では........本当にお話をするだけなのだと..........っく、」
こんな事、決して望んだ訳じゃない。
けれど、話をするだけではないかもとの疑惑が頭を掠めたのは事実で、自分の考えと行動が浅はかであった事を思い知らされる。
「空良.........」
大きな手が、躊躇いがちに私の頬に当てられた時...........
「っ、変態っ!!」
隣の部屋から菖蒲様の叫び声が響いた。
「菖蒲様........」
僅かに動く頭を隣の部屋に向けると、怒りに満ちた目で三姫がこちらを睨んでいた。
「私を、私達を一体誰だとお思いですか!この様な、その娘と同じ遊び女の様な扱い......例え信長様でも許されません!」
怒りを露わに叫ぶと、菖蒲様はすくっと立ち上がった。
「この事は帝を含め関係者に報告致します。このまま無事で済むとは思わないで下さいませっ!......あなた達、行くわよっ!」
「「はっ、はいっ!」」
菖蒲様の剣幕に押されながら、二人の姫もこちらを睨む様に部屋を出て行った。
姫達が出て行き部屋の襖が閉められると、信長様は寝所の襖を静かに閉めた。