第32章 暗雲
「どうしよう.........」
何も思い浮かばず時間だけが無駄に過ぎていた時、
「空良様、信長様がお呼びでございます」
襖の外から、信長様の使いの者の声。
「麻......?」
突然の事に驚いて麻に視線を送ると、麻は頷き立ち上がり、部屋の襖を開けた。
「夜分に失礼致します。信長様がお部屋にてお待ちでございます。急ぎお支度の上参られます様にとの事」
片膝をつき、頭を下げて話す使いの者の言葉に耳を疑った。
「あの、........信長様が.....私に来る様にと、......そう仰ったのですか?」
「はい」
「でも.....今は来客中では.......?」
三姫の内一人が、お話をされているんではないの?
「はい。ご来客中ではありましたが、何やら大声で叫ばれ、空良様を呼べと.......」
「.........っ、」
嫌な緊張で身体が震えた。
「分かりました。直ぐに向かいます」
信長様は怒ってる。
姿見を覗き、髪や着衣の乱れが無いかを確認した私は直ぐに部屋を出た。
信長様が使いの者を立てて私に何かを伝えた事は数える程しかない。そしてそれは、二人の仲がうまくいっていない時で........それ以外で信長様は、必ず自ら足をお運びになり私に直接伝えてくれていた。
今夜、来られない状況下とは言え、使いの者を介して来たと言うことは、信長様が私に怒っているからだ.......
三姫達との話し合いの中、何がどうなって今の状況を作り出したのかは分からないけれど、嫌な動悸を胸に抱えながら、私は信長様の部屋の前に着いた。