第32章 暗雲
三姫が部屋から出て行った後すぐから、私は激しく後悔をしていた。
三姫は、いずれもこの日ノ本を統治して行くのに必要不可欠なお家に縁のある方々で、納得してもらいお帰りいただく事は必須だった。
『飽きればその内いなくなるだろう』
と、信長様が徹底して寺に滞在する姫達の存在を無視されていた事に対して、どうされるおつもりなのかと不安に思う反面、そんな信長様に安堵していたのも事実で.......
けれどもやはり一度は話し合われた方が良いとも思っていてと、煮え切らない私の心が今回の件を了承すると言う結果になってしまった....
ただ、時が過ぎるにつれ後悔がじわじわと押し寄せてきていた。
本当に、話をするだけなのかな?
疑い出せばキリが無く、男と女が夜に部屋で二人きりで、何も起こらない保証なんてない(現に私は連れて来られたその夜に抱かれている)
もし、信長様の気が変わったらどうしよう.....
あんなに美しい姫達を前にして、何も感じないなんてあるんだろうか?もしも好きになってしまったら........そう思うだけで胸は張り裂けそうに痛んだ。
そして何よりも、忙しく政務をこなす信長様が今宵時間を作ってゆるりと過ごそうと言って下さったのに、その思いを無駄にしてしまった事がどうしようもなく悔やまれた。
「私.....また酷いことをしてる......」
家康にも、何があっても信長様を信じろと言われていたのに......、
私は、信長様の思いを踏み躙った.......
かと言ってどうすれば良いかも分からず、座り込んだまま無駄に時間だけが過ぎて行く。
明るかった外はいつの間にか暗くなり、気がつけば、部屋には行燈が灯されていた。
今頃、三姫の一人と話をされているのだろうか?
あんなにも美しい女人を前に平気でいられる男性がいるのだろうか?
と、不安で仕方がない。
こんなことを思うのもきっと、信長様の気持ちを信じていない証拠だと言われそうだけど、奇跡の様に結ばれて成り立つこの関係は、やはり突然に夢であったと消えてしまいそうで不安で、子供を宿し強くなれたと思ったのに、自信は揺らぎっぱなしだった。