第32章 暗雲
朝廷での話し合いは今日も無駄に終わり、俺は不機嫌なまま馬に跨り寺へと急いでいた。
「光秀、今宵は空良と過ごす。来客は全て断れ」
「はっ!仰せのままに」
京での滞在が延びるにつれ、空良との時間が中々取れず苛立ちが募っていた。
和議に向けての会談では、口を開けば婚姻を結べの一点張りで埒があかぬ。
空良が肩身の狭い思いをしながらも、懸命に寺を磨き上げ過ごしているからこそ、まだ己を律し保っていられるが、それも限界に近い。
そして今朝のマムシ騒動だ。
「そろそろ.....潮時かもしれんな」
可能ならば無駄な戦力の消耗は避けたかったが致し方ない。ほんの少し揺さぶりをかけ圧倒的な力の差を見せつけてやれば、奴らも対等に織田軍と渡り合おうとは思わんだろう。
それよりも空良を一日も早く安土に連れ帰ってやりたい。
京に来て以来空良の顔色が悪く、抱き上げれば日に日に軽くなっている事も気になっていた。
「ふっ、寝させてやらぬ俺にも原因はあるな....」
寝させてやらねばと分かっていても、空良を見た途端に欲望のタガは外れる。
あの大きな目で俺だけを見つめ甘い声を漏らす空良がたまらなく愛おしい。あの柔らかで甘い肌に己の全てを埋めてしまいたい程に溺れている。
「今宵は優しく甘やかしてやる」
奴の顔を思い浮かべるだけで疼く体を持て余しながら、俺は寺へと急ぎ戻った。
・・・・・・・・・・
「「「信長様、お帰りなさいませ」」」
湯浴みを済ませ部屋へ戻ると、女どもが3人、頭を下げて座っている。
「...........一体、何の真似だ!?」
女達の纏う香の香りが部屋に充満していて、俺を苛立たせる。
「そろそろ私達の中から信長様の正室となる一名を選んで頂きたく、不躾とは思いましたが部屋で待たせて頂きました」
そう言って頭を上げたのは確か、帝の姪にあたる女.......