第32章 暗雲
その後マムシ騒動が落ち着き掃除を済ませ部屋へ戻ると、三姫が待ち構えていた。
「...........っ、菖蒲様と、姫君達.......」
所狭しと座布団や布団などの荷物が置かれた狭い部屋に、これまた所狭しと肩を並べて座る御三方......
「どうされましたか?」
何て、このお方達に不釣り合いな部屋だろう..........
最初にその事が頭を掠めたくらいに、華やかな雰囲気を纏った御三方はこの部屋と合わない。
「遊びに来た様に見える?」
苛立ちを露わに菖蒲様は口を開いた。
「いえ」
「あなたに話があるの」
「..........はい」
身体中に緊張が走る。
「麻、あなたは席を外して」
「申し訳ありませんが、それはできま......」
「聞こえなかったの?今すぐこの部屋より出て行きなさいっ!」
それは生まれながらにして備わっている上に立つ者の威厳なのか、菖蒲様の鋭い声に、麻は言葉を奪われた。
「っ、ですがっ、」
あんな事があったばかりの私を一人にする事など、今の麻には承諾出来るはずがない。けれど私は、これを受けて立たなければいけない。
「麻、部屋の外で待っていてもらえる?」
「空良様っ!」
「麻、大丈夫。お話をするだけだから。それに、姫様方のお連れの方もいらっしゃらないのに私だけなんて、筋が通らないもの」
本当は怖い。けれど、逃げてばかりはいられない。
「では外で控えておりますので、何かありましたらすぐにお呼び下さいませ」
「うん。ありがとう」
麻は何度か振り返り、躊躇いつつも部屋を出た。
菖蒲姫を真ん中に、三姫を上座にする形で私はその場に腰を下ろした。
「此度の信長様の京入りは、祝賀会のみならず、この日ノ本を一つに束ねる為、西の主な大名を招いて様々な取り決めがなされている事は、あなたも知っているわね?」
静かな口調で菖蒲様は話を切り出した。
「はい」
「では、その日ノ本を一つに束ねる為には、私たち三姫の内一人を正妻とし、婚姻による強い結びつきも不可欠だという事も?」
「.......はい。でもっ、」
「ならば話は簡単です。あなたは早々に身をお引きなさい。後は私達の内一人が信長様に選ばれ正妻となり、信長様の天下統一を内側からしっかりと支えて行きます」