第32章 暗雲
「家康もやっぱり、信長様の機嫌が悪い事は分かってるんだ?」
今回家康は私の警護の為に来てくれているから、光秀さんの様に信長様に同行する事はない。それでもそう感じ取れる程に信長様の機嫌は日々悪くなっていってるって事だ。
「.........ごめんね」
「何であんたが謝るの?」
「だって私がいなければ本当は.....っ痛っ!」
話している途中なのに、額に痛みが走った。
「っ、家康?」
痛みの原因は、家康が私の額を指で弾いたから.....
「あんたがいなければ....何?」
そう言って問いかける家康の目の鋭さに、ぞくっと背筋に寒気が走った。
「.....あ、私がいなければ天下統一の話が上手く進むって.......痛いっ!」
さっきよりも強めに家康は私の額をピシッと指で弾いて来た。
「痛いよ家康っ!どうしてそんな事するの!?」
「どうしてか、言わなきゃ分からない?」
「..........っ、」
普段から家康は素っ気ないし、余り感情を出さないけど、今目の前にいる家康からは、怒りと悲しみが混ざった様な、凄まじい気持ちが伝わってくる。
「.....ううん、分かってる。ごめんなさい。.........でも、本当は三姫の内一人と婚姻を結んで同盟を結べばいい事だって、...政事(まつりごと)に疎い私にだって分かる。私がいなければこんなにみんなに迷惑をかけなくて済むのにって.......」
あぁ、だめだ........
こんな事で落ち込んでいてはだめなのに、私はまた弱音を吐いてる.....
強くなったと思ったのに、大きな壁が立ちはだかると簡単に砕かれてしまう。
心を強く持つ事は、どうしてこんなにも難しいんだろう。
お腹の子の為にも強くなりたいのに..........