第32章 暗雲
「......っ、私....、恋仲のままで良いかもしれません.......」
三姫達や周りの権力の脅威より、夜の営みの方が脅威だ........こんな、絶倫な方と今以上に激しい営みが出来るとはとても自信が......
「ふっ、ここへ来てまだ俺を焦らすとは余程仕置きされたいと見える」
「どっ、どうしてそうなる...んんっ」
にゅるっと、当たり前に差し込まれる舌は、私の口内を擽る。
「ん、.......っふ、」
優しい、でも全てを奪われる様な口づけに、また何も考えられなくなってしまう。
「んっ、........」
(もう、立っていられない)
力が抜けて行く身体は逞しい胸にくっつく形で信長様の腕がグッと支えてくれる。
「これから朝廷に出向かねばならんが今宵は早く戻る。久しぶりに夕餉を一緒に取りゆるりと過ごそう。もちろんこの続きもな」
唇が離れると、今度は夜のお誘いが........
「............っ、」
「では行って来る。くれぐれも身辺気をつけよ」
意味深に私の顔の輪郭を指でなぞり、更に余計な熱だけ灯して信長様は行ってしまった。
「.....気をつけて行ってらっしゃいませ」
はぁ、はぁと、呼吸を整えながら、今夜のことを思うと胸はまた大きく跳ねた。
「はぁ.........あの人、ほんとあんたしか見えてないみたいだね」
心の臓と呼吸を落ち着けていると、今度は家康の声......
「い、家康っ!今の見て....」
「はぁ?みんな見てるし」
呆れ顔の家康の背後へ視線を動かすと、僧侶や女中達が皆私の方を見ている。
「っ、.....」
ヒイッと、声にならない叫びが心の中で起きた。
そうだ、マムシが出て皆んなが集まって来て、それから、えっと、えっと、そこからは信長様のいつもの流れに逆らえなくて........
「ど、どこから見てた?」
「はぁ?全部だけど?」
「そ、そうだよね.......」
流されるままに流されて、大勢の人がいる中であんな口づけをしてしまったなんて......
「まぁ、あの人の機嫌も良くなったし良いんじゃない?苛ついたまま朝廷に行ってたら今日はちょっと危なかったと思うし.....」
家康の言葉で恥ずかしい気持ちは一瞬で吹き飛び、現実へと引き戻された。