第32章 暗雲
「んっ!!」
私の顎を掴んでいた指は頭の後ろへ入れられるとガッチリ掴んで逃げ道を奪った。
「ん、............っ、ん、」
決して人前でする様な口づけではない口づけに驚くも逃げ道は断たれており、入り込んだ舌に深く侵されて行く。
「っは、...........のぶっ、.....んぅ!」
信長様の顔以外何も見えないのに、沢山の視線を周りから感じる........
マムシを探す為、ガサガサと茂みを掻き分ける音はいつの間にか止んでいて、私の耳に聞こえてくるのは、くちゅ、.......ちゅ、........と言う二人の口づけの音と漏れる吐息だけ........
何度か角度を変え奪い尽くされると、チュッと大きな音を立てて唇は漸く離れた。
「はっ、.........っ、信長様......」
力が.......足がガクガクする......
信長様の胸に当てたままの震える手を信長様は掴み、その甲に口づける。
「ふっ、それだけ蕩けた顔が出来るなら、大事ないな」
ニヤリと、悪戯を成功させた子供の様な笑みを信長様は浮かべた。
「もうっ!普通に確認して下さいっ!」
いつもの事とは言え、私の心の臓は破裂しそうで限界だ......
「態度で示さねば貴様は中々理解せんからな。これでも抑えてやってる」
「抑えてって、いつ抑えてくれてるんですか?」
出会った次の日からずっと、いつ抑えが効いたのかを知りたいっ!(昨夜も寝かせてくれなかったし)
「貴様との日々は、煽られてばかりで我慢の連続だ」
笑いを堪えしれっと言うその口は、またしても簡単に私の唇を軽く奪う。
「っ、..............」
煽ってなんかいないし、我慢なんてしてないじゃないですか!!って言い返したいけど、幸せな気持ちが勝りグッと気持ちを飲み込んだ。
それに、先程広間から出てきた信長様の不機嫌な顔が今はこんなにも楽しそうだから、もうそれだけで良いと思ってしまった。
「祝言を挙げ妻となったらもう手加減はせんからな。覚悟しておけ」
「えっ、.....あの....」
以前、妻と恋仲では抱き方が全然違うと言っていたけど、その事を言ってるのだろうか?
それは、妻となったら激しく抱かれるって事?今以上に......!?