第32章 暗雲
「空良様、そのままじっとしていて下さいっ!」
長い舌をチロチロと出しながら威嚇音を発し私を見据えるマムシに、麻がシュッと短剣を投げた。
ドスッ!!
短剣はマムシの頭に命中した。
「空良様!」
「麻.......」
私の元に来た麻は蛇を足で蹴り遠ざけた。
「空良っ!」
遠くの廊下を早足で歩いていた信長様も麻の声に気づいたのか、私の名を呼びながら険しい顔でこっちに向かって来た。
「...........信長様...........わっ!」
逞しい腕が伸びて私を掻き抱く。
「何事だっ!」
「あ、マムシが出て...」
「マムシ!?」
険しい声を上げて信長様は地面に視線を落とした。
麻に頭を貫かれたマムシはまだ息絶えておらず、身体をクネクネとのたうち回らせている。
「怪我は?噛まれてはおらんか?」
掻き抱く腕を緩めて、信長様は私の身体を確認する。
「はい。麻が素早く気が付いて退治をしてくれましたので、大丈夫です」
「そうか」
私の言葉にふぅっと小さく息を吐くと、信長様は再び強く私を抱きしめた。
「貴様は本当に目が離せん。肝が冷える」
ドクドクといつもより早い信長様の鼓動に、どれだけ心配してくれているかが伝わって来る。
「っ、ごめんなさい。でも、こんな時期でもマムシが出るんですね。私のいた土地でもよく出ましたけど、田植えの時期位からしか見た事が無くて.....やはり雪国とは違うんですね」
ここ数日は暖かい日が続いているから、冬眠していた蛇が勘違いをして早く出てきてしまったんだろうか?
でも冬眠明けの蛇は動きも鈍いものだけど、この蛇はとても冬眠明けには見えなかった気がする.........
「冬眠明けのマムシか.........................」
信長様は少し考え込み...........
「いや、違うな........家康を呼べっ!」
家康を呼び出した。