第4章 吉祥天
「その歳であれば、恋仲の男くらいいたであろうに....強情な性格が災いして誰からも相手にされなかったとみえる」
ニヤニヤと、信長は私を覗き見る。
「う、うるさいっ!ちゃんと、許婚はおりました」
「ほぉ、許婚.....」
信長は、ニヤリと口に弧を描く。
(しまった!また......情報を与えてしまった)
「して、その許婚は今は何をしておる?」
「............................えっ?」
そう言えば.....
「........もしかして、其奴の事を忘れておったのか?」
「そ、そんな事......」
あるけど...あるけど........ある........けど............
自分でも信じられないけど、あの夜襲の日から今の今まで、許婚の存在を忘れていた!
「はっ、そんな程度の相手を恋仲とは言わん。どうせ親同士が決めた許婚で、会った事も無いのであろう」
したり顔の信長......本当に悔しい。
「っ、確かに、親同士が決めた方ではありますが、幼き頃より交流はありましたし、優しくて男らしくてお慕いしておりました。夫婦になれる日を楽しみに.....っん!」
話の途中で頭を強引に引き寄せられ口づけられた。
「っん、..................っ」
いつも以上に強引な口づけは、我が物顔で私の口内を荒らして去って行く。
「っは、...............、はぁ」
こっちは、その後の呼吸を整えるのにどれだけ大変かを分かってほしい。
「.......妬けるな。だがその男.......なぜ貴様に手を出しておらん?」
「えっ?」
「貴様が未通娘であった事は、貴様を初めて抱いた夜に分かったし、今でもすぐ頬を赤らめる様は何ら生娘と変わらん。許婚であったのなら、男女の睦ごと位あろうものを」
「な、何でもあなたと同じだと思わないで!彼は私を大切にしてくれてました。私も婚儀が整う日を心待ちにしていたのに......」
そうよ。父と母の元を離れ嫁ぐのはとても不安だったけど、両家の付き合いは円満だったし、御姑様も母上と仲が良くお優しい方だったから、彼となら幸せになれると思ってた。
でももう、信長に抱かれてしまった今となっては、例えあの地に戻れたとしても叶わない事だ。