第4章 吉祥天
「その男.....命拾いをしたな」
信長はそう言うと、私の頭を再び引き寄せる。
「え?」
「貴様に手を出しておったのなら、探し出して首を刎ねる所であった」
「な......んっ、」
また....噛み付く様な口づけ.....
あり得ないけど、私の話に少し嫉妬した様な、そんな口づけ....
「そう言えば、最近は口づけを拒むのはやめたのか?」
されるがままの私から唇を少しだけ離して、吐息がかかる距離で信長は意地悪な質問をする。
「っ、拒めば拒む程長くされるから、諦めただけです」
(逃げれば逃げるほど、力を完全に奪い尽くすまで離してくれない)
「ふっ、賢明な判断だな」
ニヤリと弧を描くと、信長は再び唇を重ねた。
「んっ.......」
すっかり忘れていた許婚の方と、こんな風に口づけあう未来を想像した事はなかった。(男女の事を何も知らなかったと言う事もあるけど.....)
あの方ともし夫婦となっていたのなら、この男の様に激しくて全てを吸い付くされてしまいそうな口づけをするのだろうか?
こんな、思考を奪う様な蕩ける口づけを.......
「空良、抱かせろ」
私の膝から体を起こすと、信長は私の腰を引き寄せ、首筋に痕を落とす。
「っ、....や、嫌です」
「ならば今すぐ俺の命を狙え」
「んっ、や!今夜も狙いません。だから信長様にも抱かれません」
流されそうになるのを必死で抑え、信長の胸を両手で押す。
「ふっ、本当に強情な女だ。まぁ良い、ならこのまま膝を貸せ。寝る」
そう言うと、また私の膝に頭を乗せ寝転がり目をつぶった。
ドクンドクンと煩く鳴っている胸の音を聞かれない様に必死で手で押さえ付ける。
最後に抱かれたあの夜から、毎晩続くこのやり取り.......
「っ...」
もういつまで拒めるか.....心は揺れに揺れていた。
・・・・・・・・
結局朝目覚めると、信長の腕の中。
これに関しても、私は既に受け入れてしまっている。
信長は一体、私をここに閉じ込めて何をしたいんだろう?
私の事を聞いては来るものの、あの夜の、本能寺での事を言えとは最初の夜以来決して言ってこない。
あんなにも憎かった男との日々は、思いがけず平穏で穏やかに過ぎていて、私は自分の使命が何なのかを忘れかけていた。