第4章 吉祥天
「ほう、貴様には、兄がおるのだな」
「うぅーーーーー、別に、兄弟位、誰にでもいます。信長様にだっているでしょ?」
何だか悔しい......
「兄弟なら何人かおる。殺した者もおるがな.....」
「えっ?」
明るかった話題が一気に奈落の底へと沈む。
「何を驚く?男子が多ければそれだけ家督争いも起きやすくなる」
「そう......ですけど....」
身内を手にかけるなんて........
「どうした、俺が怖くなったか」
ニヤリと笑いながら信長は私に問いかける。
「べ、別に.....身内をその手にかけるのだから、他人の命なんてさぞかし簡単に奪えるのだろうなと思っただけです」
私の父と母の様に.......
「否定はせん。俺は、俺の信念に沿って動くのみだ。何人たりとも邪魔はさせん」
そう言って笑う時の信長の目は、やはり氷の様に冷たい。
「かような話はどおでもいい。して、貴様が見た枕絵には何が描かれておった?」
信長は話を元に戻すと、私が見た絵巻物について聞いてきた。
「えっ?.......あの.....」
そんな恥ずかしい事......説明出来るわけがない。
「ふっ、どうした?俺とは、それ以上の事をしたであろう?」
「っ............」
悪戯に腿を撫でられながら囁かれると、この間の事が思い出され身体が熱くなっていく....
「だ、男女が..........下半身を露わにして座って抱き合ってる絵でした」
私が見たのはその絵だけだけど...........
「まさか、最初から最後までその体制で抱き合ってまぐわったら終いだと思っておったわけではあるまいな?」
「えっ?.......そ、そう....思ってましたけど.....」
違うと言う事は、もう嫌ってほど分かってる。
「くっ、本当に何も知らんのだな。その絵は最終段階だ。そこにたどり着くまでにはいくつもの手順を踏まねばならん」
「わ、分かってます!」
正しくは分かったんだけど.......
何だか、もう既に夜の営み講座のようになって来た。