第31章 京宴 後編
「何でしょう?」
「あの.......、お腹に子がいる事を黙っているから、その.....信長様との夜伽は続いていて.........それはお腹の子には大丈夫なのかなって......」
こんな事を聞くのもあれだけど、この知識は頭に入れておかなければいけない。
「ふふっ、信長様の空良様への愛情は大変深いものですものね。でも、心配は要りません。体調させよければ問題はないと私は聞いております。安心して愛されて下さいませ」
麻は笑いながら私の問いに答えてくれたけど、にこりとその口角が上がっていて、揶揄われていることが分かり恥ずかしくなった。
「わぁ〜、恥ずかしいから言わないで」
顔から火が出そうなほど恥ずかしくて、両手で顔を覆った。
「あら、照れる事ではありませんわ。ですがその夜伽の為にも、今はお身体を少しでもお休みさせるべきです。さっ、横になって下さいませ」
「は、はい。ありがとう」
侍女から恋仲になり、将来の約束も交わし、お腹に新たな命も授かったのに、信長様の事になると恥ずかしくて身体中が熱くなる。
(ずっとここままなのかな.....)
顔を思い浮かべるだけで胸が高鳴る愛しい人のことを思いながら、私は信長様のお帰りを待てずに眠りへ落ちた。
・・・・・・・・・・
「信長様、お帰りなさいませ」
「空良はもう眠ったか?」
「はい、今宵も信長様をお待ち致しておりましたが、空良様のお疲れもかなりなものですので眠っていただく様にお願いました」
「そうか、ならばいつも通りに連れて行く。貴様ももう休め」
「はっ、ありがとうございます」
眠りについた私の耳に微かに届く男女の会話......
その会話が途切れると襖が静かに開けられ、すっ、すっ、と、誰かの足音が近づいてきた。
その足音が近くで止むと、次は優しく頭を撫でられ、額に柔らかな感触。
その感触はちゅっと軽く音を立てるとすぐに離れ、次は私の唇に落ちた。
(........あ、信長様だ)
会いたい人の唇を感じた私は、その愛しい人の顔が見たくて重い瞼を開いた。