第4章 吉祥天
そして、信長は夕餉を食べて廻縁に出てお酒を飲む。
毎夜の事と決まっていても、私は言われるまでは決して信長には近づかないし酌もしない。
「空良、酌をしろ」
呼ばれれば、渋々その場から立ち上がり信長の近くに腰を下ろしてお銚子を手に取り空いた盃にお酒を注ぐ。
「........何か、話をせよ」
「......お楽しみ頂ける様なお話は何も知りません」
「ふっ、貴様は言葉を発するだけで既に面白い。何でもいい、話せ」
「嫌です。話したくありません」
これもお決まりの会話となってきた。
「強情だな。貴様の母もその様に強情な女であったのか?」
信長はお決まりの様に、いつも私の心を乱す言葉を必ず入れてくる。
「っ、母の事を悪く言わないで!母は優しくて、綺麗で、私の憧れで...私とは全然違う........それに、母の事をあなたの口からは聞きたくない!」
信長の煽り文句にのってはいけないと分かっていても、私はその言葉に反応し、会話の糸口を与えてしまう。
「そうだな。まぁ、貴様のその強情な所も悪くない」
くいっとお酒を飲み干すと、信長は当たり前に私の膝に頭を置いて寝転んだ。
「.............っ」
「貴様は、すぐに赤くなるな。武家の娘でも、そこまで男に疎いのは珍しい」
私の髪を指先でくるくると弄びながら信長は楽しそうに意地悪な言葉を投げてくる。
「ば、馬鹿にしないで。男女の事位私だって...........」
言葉の挑発に乗ってはいけないと分かっていても、つい言い返したくなってしまう。
「なんだ、まるで知っている様な口ぶりだな」
信長は楽しそうに挑発を続ける。
「わ、私だって絵巻物で見て.......少しは勉強を.......」
「絵巻物?.....くくっ、枕絵の事か?それは貴様の物ではあるまい、貴様の父親が見ておったのか?」
「ちがっ、父上はそんなものは見ません、それは兄上の................ぁっ」
悔しい.............!
また、.....引き出された。しかも兄上ごめんなさい。