第30章 京宴 中編
「いただきます」
あんなに大きなお腹の音を鳴らしたのに、いざ朝餉を目の前にすると、どんどん胸のムカつきが広がっていく。
「どうした?食べんのか?」
お箸が中々進まない私を不思議そうに見る信長様。
「あ、全て美味しそうで、どれから食べようか迷ってしまって....」
「ふっ、貴様らしいな」
「その一言は余計です」
信長様の言葉に拗ねたふりをするのが精一杯で..........
大好きな物ばかりが並べられているのに、できれば遠ざけて見たくないほどに気持ち悪さを増幅させて行く。
でも、この体調不良を気取られてはいけない。
昨日の船酔いに引き続き今朝もなんて、余計な心配をこれ以上かけたくない私は吐き気を必死で堪えて、膳の上のご飯を平らげた。
・・・・・・・・・・
(わぁっ!)
朝餉を済ませ、本日の祝賀会の装いに身を包んだ信長様は想像以上にかっこいい。
「何だ?何か言いたげだな」
まるで絵物語に出てくる公達そのもので、ぽーっと見惚れていると、片眉を上げて笑う信長様に腰を引き寄せられた。
「あっ、あの......、公家の装束がとてもお似合いでかっこよくて.....」
「ふっ、それが貴様の惚れた男だ」
ニヤリと俺様に笑い弧を描く唇は、ちゅっと素早く私の唇を奪った。
「っ、.........」
(その通りだけど、なんか悔しい....)
「では行ってくる。また夜に会おう」
「はい。いってらっしゃいませ」
ドキドキと煩い胸を押さえながら、愛しい人の後ろ姿が見えなくなるまで見送った。
「..........っ、.....うっ」
そして、ついに我慢の限界が来た。
「空良様っ!?」
「ごめん麻っ、」
信長様を見送り我慢の限界を超えた私は、両手で口を押さえて厠へと走った。
胸に詰まるもの全てを吐き出すと少し胸のムカつきは治り、私は呼吸を落ち着かせて厠から出た。
「空良様、大丈夫ですか?もしやずっと体調がお悪かったのでは?」
厠の外で控えていた麻は心配気に私の身体に手を添えた。