第30章 京宴 中編
「分かった。貴様のやりたいように過ごしてみよ。夜になれば、また貴様を拐いに行ってやる」
訝し気に見ていた顔はニヤリと愉快に笑い、口角を上げた。
「っ、ありがとうございます」
自由に振る舞う事を認めて下さった反面、夜は、いつ信長様のお渡りがあるのかと気が気じゃなくなる気がしてきた.........うぅ〜ドキドキして心の臓が痛いぃ〜
「だが朝餉はここで食べて行け。昨日も飯ひとつ出なかったと聞いている。貴様の身体は俺のものだ、俺のものを疎かにする事は許さん」
「でも......」
食べたいけど、こんなに大口を叩いておいて、それはちょっと図々しいんじゃ.....
「折角ですが....」
きっばりとお断りしようとした時、
グウウゥゥーーーーーー
心よりも正直な私のお腹は、朝餉と言う言葉に反応してしまった........
「折角ですが、........の後は、何と言うつもりであった?正直な貴様の腹の虫の意見を無視するつもりか?」
ぶぶっと吹き出すように笑いながら、信長様は私のお腹をつついた。
「せっ、折角ですから食べてから戻りますって言おうと思ったんですっ!」
ううーーーっ、恥ずかし過ぎるーーーーーっ!
「本当に飽きん奴だ。その腹の虫が騒がんようにしっかりと腹を満たして行け」
信長様の笑いはしばらく続いた。
その後、布団から起きて直ぐに麻が着替えを持って来てくれ、身支度を整え終わる頃には二人分の朝餉の膳が運ばれてきた。
「ご飯、おつぎしますね」
信長様の膳からお椀を取るとお櫃の蓋を開けた。
炊き立てのご飯が入れられたお櫃の蓋を開けて匂いを嗅ぐのが好きな私は、今朝もいつも通りにすーっとその匂いを思い切り吸い込んだ。
「...............っ!」
いい匂いのはずが一転、ぐっと、気持ち悪さが一気に胸に込み上げた。
「空良?」
お櫃を見つめたまま動きを止めた私に信長様は声をかけた。
「っあ、何でもありません。とても美味しそうで見入ってしまって.....」
込み上げるものを押し戻すように、ごくんと唾を飲み込んで耐えた。
「ふっ、食い過ぎて腹を壊さぬようにな」
「気をつけます」
信長様のご飯をよそい、心配をかけないように自分のご飯も多めにお椀へと盛った。