第30章 京宴 中編
でも、戯れ.......
確かに信長様は何に置いても常に愉快である事を求められる方ではあるけど....
「私も、戯れでしたか?」
今は違うと、そんなの分かってるけど、聞かずにはいられない。
「ふっ、俺に何を言わせたい?貴様しか見えておらんと常々伝えておるのに」
私の質問に、信長様は鼻で笑った。
「っ、ごめんなさい」
自分でも分かってる。今夜の私はとても欲しがりだ。
温もりも、言葉も、態度も、信長様が私に下さる全ての甘いが欲しくて仕方がない。
そんな自分が恥ずかしくて俯くと、
「空良」
信長様は私の頬に手を当て熱い眼差しで捕らえた。
「確かに、初めて貴様をこの手に抱いた夜は、戯れに抱くつもりであった」
「っ、......はい」
「たが戯れが戯れでは済まなくなった。貴様を抱いた夜から歯止めが効かなくなり、どんどん貴様に溺れていった。それは今とて変わらん。いや、日々その気持ちは膨らんでいくばかりだ」
「っ、」
予想していた以上に真っ直ぐで大きな信長様の気持ちを伝えられ、顔が熱くなると同時に、嬉しすぎて顔がにやけるのが分かった。
「ククッ、分かりやすく顔が緩んだな。満足のいく答えであったか?」
「は、はい.........ん、」
優しい、触れるだけの口づけ.......
「愛した女など、過去にはいない。こんな事を俺に言わせるのも、言いたくさせるのも貴様だけた。空良、俺は貴様だけを愛してる」
欲しかった以上の言葉を貰い、涙が溢れた。
「っ、私、もう死んでもいい........痛っ!」
感動で号泣の最中、急に鼻をぎゅっと摘まれた。
「なっ、何するんですかっ!?」
「貴様、俺との約束を忘れたのか?」
「約束?........あっ!」
それは、恋仲になったばかりの頃にした大切な二人の約束。
『二度と、俺の前で死を望むな』
死を望んでばかりいた私が信長様に誓った大切な約束。
「ごめんなさい」
「ふんっ、嬉しい気持ちを死で表現するなど、余程仕置きされたいと見える」
「ちっ、違いますっ!さっきのは言葉の綾というか、本当です!」
「ふっ、冗談だ。そんなに焦らずとも今宵はこのまま眠らせてやる」
ふわりと逞しい腕に包まれると自然と眠気がやって来て、誘われる様に眠りに落ちた。