第30章 京宴 中編
「貴様を恋しく思い戻って来た恋仲に、お帰りの口づけもなしに言葉に困るとは、冷たい奴だ」
仕返しとばかりに、信長様は私の耳をかぷっと甘噛みする。
「っ、ぁっ、......ごめんなさい..........でも、...これからそれ以上の事をしようとしてるのに.......?」
だって、私が何言ったってするでしょ?
なのにお帰りの口づけ.....必要...........?
「はっ、違いない」
「んっ、」
私の言葉に納得した様にニヤリと弧を描いた口は、私の唇を瞬間で奪う。
(どうしよう.......涙が.......)
口づけで力が抜けてしまうと気も緩んでしまいそうで......我慢していた涙が込み上げてくる。
「身体の具合はどうだ?」
「あ、たくさん休ませて頂きましたので、もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」
「そうか、ならば問題はないな」
「え?」
「ここで貴様を抱いても良いが、修行僧達が聞き耳を立てておるからな。やはり俺の部屋へと連れて行く。それまでに涙は止めておけ」
「.............っ、はい」
堪えきれず目頭に溜まった涙を唇で拭ってくれると、信長様は私を抱き上げ部屋を後にした。
・・・・・・・・・・
信長様の部屋へ着き褥へ降ろされると、優しくて深い口づけが降り注がれた。
「.......っん、今宵は、お酒をたくさん飲まれたのですか?」
いつもより濃いお酒の味のする口づけに、信長様が今宵沢山のお酒を召し上がられたことが分かる。
「ん?...あぁ、そうだな。勧められるがままに飲んだやもしれん。何の味もしなかったがな.....」
少し唇を浮かせて私の問いかけに答えた信長様は、再び私の口を塞ぐ。
「んっ...............ふっ、........っはぁ、の、信長様の口づけ、いつもよりお酒の味がして、このままだと私、お酒に酔ってしまいそうです」
お酒だけじゃなくて、今宵の信長様はいつも以上に艶めいていて、その色気と口づけだけで意識が飛んでしまいそうな私は、今一度信長様の口づけを手で止めた。