第30章 京宴 中編
「信長殿、頭から否定をされず、先ずは三姫に会ってみて、それから決めても遅くはないのではないか?某の娘も含め、三者三様に家柄も器量も良く、きっと気にいると思いますぞ。まぁ、三人とも娶りたいと言われても困りますがな。はっはっはっ.......」
知らなかったとはいえ、寺に着いて早々に気位の高い女達と空良が鉢合わせをしたとなると、空良が何を言われたのかは容易に想像がつく。
泣いておらぬ事は分かっておるが、あの大きな瞳が不安で揺れているのかと思うと気が気ではない。
「御館様、麻よりこれが......」
光秀が小さく畳まれた紙を手に広間へと戻って来た。
「寄越せっ!」
その紙を受け取り目を通せば、大方予想通りの展開......
「............分かった」
この日の為に一生懸命に学び励んでいた空良が一番悔しい思いをしておる。
奴が耐えておる事に、己が怒り狂うわけにはいかぬ俺は、怒りを収める様に紙を握りつぶした。
「光秀、急ぎ戻る手配を........................いや、宴が終わり次第急ぎ戻れる様手配しておけ」
「はっ!」
出来るならば、今すぐにでも戻り抱きしめ守ってやりたいが........
麻の寄越した文には、この事は空良には内密にと書かれてあった。
奴は、此度の事は己の力で乗り越えようとしているという事だ.......
「暫く、様子を見るか......」
確かに、こんな事は想定内だ。
空良とて、此度の事は覚悟を持って臨んでいる。
まだ今は、手を貸す時ではない。
「空良、貴様のお手並みを拝見させてもらおう」