第30章 京宴 中編
「なるほど......、聞いていた通り、信長殿はその娘にかなりご執心と見える。だが、その娘はそのまま側女として置かれるが良い。信長殿がまこと天下統一を望むのであれば、我ら四国一頭か、毛利と手を組む他ありませぬぞ」
四国、毛利の力は確かに欲しい。......が、
「貴様らと手を組むのに女は必要ない。互いに有益であると思えば手を組む。それだけだ」
婚姻による結びつき程当てにならぬものはない。
ましてや、決して愛す事もない女を妻と娶るなど考えられぬ。
「それでは両家の絆が深まりませんぞ、婚姻を結び、子をもうけて初めて両家の結びつきが強くなると言うもの。某の娘も大名家の娘としての役割はよく分かっておる。嫡男さえ産まれれば、その後で側女を愛でれば良いではないか」
もはや、空良を側女としか考えておらぬこの男に何を言った所で無駄だが、俺とて空良に出会い愛を知るまでは、この大名の様に考えていた。まことに、人の心とは不思議なものだ.....
それに、ここで俺が何を言ったとて、送り込んだ女達はその身を簡単には引かぬであろう。
「何人だ?」
「は?」
「何人の女達を、寺に送り込んだ?」
面倒だが無碍にもできぬ。
「帝の姪御であられる菖蒲姫様を入れて寺の方には三名。気に入らなければ明日の祝賀会でその他の候補の姫達と会う手筈は整っておりまする。ですが、容姿と血筋から言ってもこの三名なら申し分ないと思いますが.........」
「ご苦労な事だな......」
計算高くニヤつく大名にため息しか出ない。
要するに、空良がここに来られない原因は、そこら辺にあるのだろう。
あの寺の従職は、織田家縁の者が務めていて気を許していたが........あやつめ、口うるさい織田の家老達に丸め込まれおったな。