第29章 京宴 前編
「麻に、手管を教えてもらおうかな.......って、いやいや、何考えてるの私.....」
でもあんなにも凄い人達が相手なんて.....
「ああっ、だめだめっ!」
どんどん負の気持ちに巻き込まれてしまう。
気持ち以外で勝てるものがないことなんて、とっくに分かってる事!
そんな何もない私をあんなにも愛してくれる信長様の気持ちを蔑ろにしてはだめだ。(でも、過去の女性関係はとても気になる)
とにかく早く会いたい。
宴に出るのは緊張するけど、信長様に会えるのだと思えば心も前向きになれる。
「信長様.......」
信長様の温もりに包まれたような気持ちになり、身体が睡魔に包まれ始めた時...
「空良様、失礼致します」
麻が艶やかな髪を揺らし、早足で部屋へと戻って来た。
「麻......?」
「お休みの所申し訳ありません」
取り乱してはいないけど、少し呼吸を乱して話す麻の姿にただ事ではないと思い、私は体を起こした。
「どうしたの?」
「空良様のお荷物一式が、紛失致しました」
「えっ?」
「今全ての荷物を再確認させておりますが、恐らくは見つからないものと......」
「麻、......それって...........」
「空良様を宴に行かせたくない者の仕業でございましょう」
「そんな..........」
こんな事、安土にいたままの私なら、そんなはずないよと笑えたけれど、先程の洗礼を受けた今はもう、冗談でしょう?と笑う事はできない。
「私を、信長様に会わせないつもり.....って事?」
あの荷物には、今日の日の為に信長様が仕立ててくれた着物や帯が入っていたのに......
「........とりあえず、荷物の再確認の報告を待って、策を練りましょう」
麻はそう言うと、私に横になる様にと身体を優しく押してくれた。
「あの、...麻?.........この事、その......家康には?」
「ご安心下さい。お話ししておりません」
「ありがとう。ごめんね、わがまま言って.....」
麻だって、嫌な思いをしたばかりなのに.....
「大丈夫です。寧ろワクワクして来ましたわ。次は何が起こるんだろうって」
麻は挑戦的な目で余裕の笑みを浮かべた。