第29章 京宴 前編
「心配には及びませんわ。信長様の、空良様への思いを目の当たりにすれば、戦いを挑もうなどと、どの姫達も思いません」
「麻...........」
「さて、何とか寝る場所は確保できましたわね。今宵の宴の支度もありますので、私は荷物の確認をして参ります。空良様は少し横になってお休み下さいませ」
「うん、ありがとう。お言葉に甘えて、少し休ませてもらうね」
麻の話を聞いて安心したからか、忘れていた胸のつかえが少し戻ってきた私は、座布団に横たわった。
「井の中の蛙.....かぁ......」
越前の山奥で育った私は、あの夜襲に会うまで越前から出た事はなく、顕如様に助けられてからも、いつも人里離れた山中を転々としていたから、あまり世間というものを知らない。
信長様に関する事は、全て顕如様から教えられた事ばかりで........そしてそれは必ずしも良き内容ではなかったけれど、信長様と安土で過ごす様になって、私の思う真実の形へと塗り替えられていった。
ただ一つ女性の事に関しては、日々女中部屋で繰り広げられる会話から、信長様がかなりオモテになり、女性との関係も派手であった事が伺い知れ、そのたびに落ち込んだものだけど、そんな事を忘れさせてくれるほどの愛をその夜には与えられて、私はいつも幸せに包まれていた。
「安土の中の蛙.....だったんだなぁ...私......」
信長様がどれほど偉大な方なのかは、城下を一緒に歩いた時に分かったつもりだったけど、本当の意味での偉大さには気が付いてなかった。
帝から信頼を置かれる程の方で、高貴な姫君達を夢中にさせる魅力をお持ちの方と添い遂げようなど、覚悟を決めたつもりでも、やはり自信は揺らいでしまう。
「うーーー、弱気になっちゃだめ!信長様を魅力的な姫達に近づけないようにしないと」
もう、信長様を政略的な婚姻から守ると言うよりは、艶やかで魅力的な姫達に浮気心を抱かせないようにしなくてはに変わってきた。