第29章 京宴 前編
「ふふっ、そうだね。こうなったら何でも来いっ、よね!」
「そのいきです。空良様」
「麻のおかげで元気もやる気も出てきた。一緒にいてくれて、ありがとう」
信長様と光秀さんの命により私に付いてくれている事は分かってるけど、でも、麻のこの優しさと強さは本物で、私はこの強さにいつも、そして今も救われていて、言葉にならない程に感謝してる。
麻がこんなにも強くて美しいのは、辛く悲しい事を乗り越えたからなのかな.......?
「私も、麻の様になれるかな.....?」
あらゆる雑念にいつも心を囚われてしまう私とは違う。麻は自分の信念で前を向いているから美しい。
「私の様にではなく、この先この日ノ本には、空良様の様になりたいと思う女性達で溢れ返る事になりますわ」
「ふふっ、そうなったら嬉しいけど、もうお部屋でごろごろなんて出来なくなりそう......」
「そうですね。......ごろごろするなら今の内かもしれませんね」
「「ふふっ」」
お互いに顔を見合わせて声を出して笑った。
こんな状況なのに、笑うと何とかなると思えてくる。信長様がいつも笑えと言う言葉が思い出される。
「今一度、荷物の確認をしてまいります」
「あ、私も一緒に.......」
気になるし、自分で確かめたい。
立ち上がるとすぐさま肩を押されて座布団にお尻がついた。
「いけません空良様。これは、侍女である私の仕事です。空良様は慣れない土地と長旅でお疲れですから少しでもお身体を休めて下さいませ」
「.........はい.......」
麻は部屋から出て襖を閉める前に再度私の顔を見た。
「くれぐれもこの部屋の掃除など致しません様......」
「わ、分かってます」
しっかりバレてる.........
「では、行って参ります」
クスッと笑いながら、麻は部屋の襖を閉めた。
麻はこの後、夕刻を過ぎても部屋には戻って来なかった。
たくさん運び込まれた織田の荷物の中から私の荷物だけが一つも見つからなかったからだ。
麻が必死で探してくれたにも関わらず荷物を見つける事はできず、私はその夜の宴に行く事はできなかった...........