第29章 京宴 前編
『初めからそんなにガチガチじゃあ、簡単に足元掬われちまう。もっと力を抜いていけ』
政宗に言われた言葉をふと思い出す。
うん、そうだね。政宗の言う通り、早々と足元を掬われそうだったよ。
頭を、もっと柔軟に、しなやかに.....
「えいっ!!」
パンッと、両手で頬を叩いて気合を入れた。
「よしっ、大丈夫!」
さっきの出来事(特に信長様の女性問題)のおかげで、船酔いの気持ち悪さも吹き飛んだ。
「先ずはこの部屋を寝られる位には片そう。麻、手伝ってくれる?」
「もちろんでございます」
麻は楽しそうに腕を捲る仕草をして見せた。
これは、私の戦..........
信長様を数多の姫君からお守りすると約束をした私の、女の戦で、負けるわけにはいかない!
「そう言えば空良様、先程の菖蒲様とのやり取りで、私の事、もうお分かりになりましたわね?」
気合を入れて燃えている私の横で部屋を片しながら、麻はふいに口を開いた。
「あ、....うん。.......でも、麻は綺麗だし、優雅で知的で..........、もしかしたらそうなんじゃないかな?とは思ってたから.......あまり驚きはしなかったよ?」
「あら、褒めてくださるんですか?」
「ふふっ、本当の事だもの」
先程の菖蒲様もそうだったけど、麻も身のこなしがすっきりとしていて華やかさがあり、武家の女人とは少し違う雰囲気を持っている。
「私の本当の名は、亜沙と書きます」
麻は、積まれた座布団に指で文字を書き本名を教えてくれた。
「私の生まれた家は五摂家の一つでしたが、父はその育ちの良さが災いしたのか元来人に騙されやすくて...........、公家が栄華を誇っていた平安の世とは違い、主上でさえお金には困っているのが今の朝廷の現状で、父はあらゆる人の保証人の肩代わりをして、気がついた時にはもう何ともならない状況でした」
麻は、昔話でも語るように、自らの事を話し始めた。