第29章 京宴 前編
「空良.........ね。.....あなたの事は聞いているわ。本能寺の女中という事に世間ではなっているけど、実は本能寺に忍び込んで信長様をたらし込んだ遊び女なんですってね」
「っ............」
「どの様な女かと思っていたけれど、こんな子供の様な.........、私たちには到底理解できない、さぞかし淫乱な手管で男を惑わしているのでしょうね」
向けられたのは、敵意ではなく、蔑むような目........
私に関して、世間では様々な憶測が飛び交っているのは知っていた。
夜襲の事もあり身元を公に明かす事が出来ない為、本能寺から連れて来た女中という事にしたままになっているけど、そんな事は少し調べれば分かる事で、それが更なる噂を呼んでひとり歩きしているとは聞いていた。
でも、遊び女という言葉には、やはり胸がチクッと痛む.......
「菖蒲様、お口が過ぎますっ!空良様はいずれ織田様の、天下人のご正室となられるお方!それ即ち、織田様への冒涜となりますよ!」
何も言い返せない私の代わりに、麻が反撃の言葉を発してくれた。
「ふんっ、冒涜になどならないわ。此度の滞在では、私の他にも中国や四国から候補の姫達が来ていて、その内の誰かを信長様が正室に選ぶのだと聞いています。だからこそ、私たちは信長様の寝所の近くの部屋に通されているのだもの」
「っ、............」
(信長様の寝所の近くって......、乞われれば夜伽も厭わないって....事?そんな事をしてまで信長様との、織田軍との関係を築けと.........?)
菖蒲様含め、他の姫達の並大抵じゃない覚悟と使命を知らされた気がした。
「お言葉ですが、信長様は既にこちらの空良様をご正室にと決めております。菖蒲様達が選ばれることなどありません」
「信長様が何と言おうと、他の誰もそんな事は許さないわ。正室になるのは選ばれし姫達の一人よ!...........ねぇ、空良、私に協力してくれるならあなたを悪い様にはしないわ。そのまま側女として置いてあげても良くってよ?」
「菖蒲様っ!」