第4章 吉祥天
そして......
『織田信長だな!』
夢の中の女の言った通り、目覚めた俺の前には、あの女によく似た、まだあどけなさの残る女が懐剣を握りしめて立っていた。
『っ........確かに、俺は織田信長だ...........貴様が..... 空良か?』
『っ!何故私の名を!?』
名前を呼ばれ驚く空良同様に、俺自身もあれが夢幻ではなかったと言う事に驚きを隠せなかった。
『くくっ、まさか本当だったとは.......』
どの様な状況でもと言ってはいたが、まさかこの様な状況とは、あの女も中々に無茶な願いをしたものだ。
『織田信長、覚悟!』
目の前の女は、俺の置かれた状況も知らず命を狙ってくる。
『ほぅ、貴様.....この俺に刃を向けるか』
だが、約束は約束だ。貴様の娘を助けてやる。
『あっ!』
手刀で空良の懐剣を薙き払い、
『うっ、............!』
空良のみぞおちを打った。
『.................ごめん.....なさい.......母......』
空良は薄れ行く意識の中、何度も母親に謝りながら俺の腕に落ちた。
..............あの本能寺で屋根が焼け落ちる中、俺に刃を向ける空良は夢の中の女同様に美しく、いつかどこかの寺の掛け軸で見た吉祥天の様に綺麗で、俺の目に強く焼き付いた。
..............あれから10日、空良への興味も謎も深まって行くばかりだ。
「空良、貴様は一体....誰なんだ......?」