第29章 京宴 前編
「お身体の調子は、いかがですか?」
「少しフラフラするけどたくさん寝させてもらったからもう大丈夫。心配かけてごめんね」
「くれぐれも無理はなさいませぬよう。体調が優れなくなった時はすぐにお知らせ下さい。今夜の宴も無理はしなくても良いと信長様から仰せつかっております」
「ありがとう」
船の中で揺られていた時ほどの酷さはもうない。後は気をしっかり持ちさえすれば、乗り越えられそうだ。
それに今夜の宴は、明日の祝賀会の事前打ち合わせも兼ねながら、とある大名屋敷で開かれるものだと聞いている。ここからは信長様のお相手として、信長様に恥をかかせないようにしっかりしなくては....
「空良、あんたの部屋はこの僧侶が案内してくれるって」
気合を胸に意気込んでいると、お寺の門で何か高僧らしき人と話をしていた家康が私の元へとやってきた。
「あ、家康ありがとう。私の体調に付き合わせてごめんね」
きっと、信長様達と共に京入りをしたかっただろうに。
「あんたバカ?」
「え?」
会っていきなりバカとはあんまりだ。
「俺は元々、あんたに何かあった時のためにここに来てるの。あんたと行動を共にするのは当たり前でしょ!」
「あ、うん」
それはそうなんだけど....
「それにこう言う時はごめんねじゃなくて、ありがとうって言うんだよ」
はぁ〜っと、家康はお決まりのため息をついた。
「家康...、なんだか今日は優しいね?」
家康が優しいって事はもう十分に分かってはいるけど、天邪鬼な彼に優しく正論を言われるとなんだか調子が狂ってしまう。
「......何?その余計な事言う口の中に、千振(センブリ)でも突っ込んであげようか?」
「ごっ、ごめんなさいっ!それは本当に嫌っ!」
あんな苦いもの、いくら良薬口に苦しとは言え絶対に無理っ!
「本当にあんたって必死すぎ。千振は冗談だけど体調はどうなの?何か煎じて後で持って行こうか?」
クスッと笑った家康は、体調を気遣ってくれる。
「ありがとう。でも大丈夫。もう船に揺られてないし、このまま落ち着きそうだから」
「そう。じゃあ夜までまだ暫くは時間があるから、部屋でゆっくりしなよ」
「うん。そうさせてもらう」
じゃあねと、互いに案内役の僧侶に連れられ、私と家康は一旦門の所で別れた。