第29章 京宴 前編
『空良.....、入る時は外から声を掛けなさいといつも言っているでしょう?』
呆れた声で私に注意をする母上は困った顔で笑っていたけど、その目は泣いた為赤くなっていて、この時ばかりは、何故勝手に襖を開けてしまったのかと後悔をした。
『......あ、ごめんなさい。あの、お土産が気になって......』
『もうこの子は、いつまでも食いしん坊で.....』
『空良、土産ならお前の侍女に預けてある。見ておいで』
母上の背中に優しく手を回した父上は、私に優しく言った。
『あ、....はい。ありがとうございます。.........でも.....』
母上が泣いていた事が気になり、もう一度チラッと母上に視線を向けた。
『空良、行きなさい』
少し強い父上の口調に、ここにいては行けないのだと思い、
『はい。見てきます』
私は部屋を出た。
お土産の所へと行くフリをした私は途中で足を止めて、そっと襖に耳を寄せた。
『あぁ、旦那様..........』
聞こえてきたのは、再び泣き声をあげる母上の声。
『案ずるな、俺は、お前も空良も渡しはしない。必ず守る』
父上の聞いた事がないほどに低くて怒りに満ちた声に、ただならぬ事があったのだと思い、それ以上は聞いてはいけない気がして、私はその場をそっと立ち去った。
屋敷が夜襲にあったのはその5日後。
私は、全てを失った............
・・・・・・・・・・
「.......................っ」
夢から目覚めると、駕籠の中。
船酔いはかなり治まっていたけど、駕籠の揺れも気持ち悪さを誘ってきて、まだ本調子とは言えそうにない。
それにしても、
「今の夢..........あれが、夜襲を受けた原因だった?」
あの後、買ってきてくれたお土産を皆で食べようと広間に集まった時には、二人ともいつも通りに戻っていたし、その後も何事もなく日常を送っていたからすっかり忘れていたけど、確かにあの日、朝倉様のお城から戻られたお二人の様子はおかしかった。
元々、浅倉様からの呼び出しもかなり急なもので、父上だけでなく、母上も一緒にお城に参上する様にと使いが来て、皆で不思議に思っていた。