第29章 京宴 前編
ああ.....、やはり夢を見てしまった......
今見えているここは、懐かしい、.....私の、.....越前の屋敷の台所......
この日は確か..........
『まぁ、姫様!探してもいないと思ったらこんな所に!』
『見て見てっ!今裏山を散歩していたらこんなにも山菜が......!』
『あら、タラの芽』
『そうなの!ワラビとゼンマイも取ってきたの。まだ他にもふきのとうやノビルもあって、でも持ちきれないから籠を取りに戻ってきたのだけど、.........籠が見当たらなくて.....』
『そうですか。籠ならそこの棚の上に...........じゃあ、ありません!』
『どうしたの?そんなに慌てて』
『慌ててじゃありません!お父上様達がお戻りになりましたよ。戻られたら教えて欲しいと、姫様がおっしゃってたのでは?』
『えっ、本当?戻られたの?』
『はい』
『私、ちょっと行ってくるっ!』
『まぁっ、姫さまっ!廊下は走ってはいけませんっ!姫様っ!』
私と侍女の廊下を走る走らないのやり取りは日常茶飯で、台所からの叫び声を無視して私は父上達のお部屋へと向かった。
そうだ、この日は確か、朝倉様に呼び出された父上と母上が3日ぶりに戻って来て、城下で美味しい物をお土産に買って来てくれると約束をしていた私は、それを楽しみにお二人のいるお部屋まで行ったんだ。
『父上、母上、お帰りなさいませっ!』
待ちきれなくて、勢いよく襖を開けた私の目の前には、父上に肩を抱かれ俯く母上の姿..........
『空良........』
突然部屋に入って来た私に驚いた母の頬は涙で濡れていた。
悲しみの涙を流す母上の顔を見たのは、この時が最初で、そして最後............。それ程に母上は気丈であったし、明るくて優しい方だった。
『空良........』
『............母上?........どうされたのですか?』
『何でもありません.......』
母上は慌てて涙を拭い、笑顔を作った。