第28章 歯車
「そんなに不安そうな顔をするな。何もここに貴様を置いて行く訳ではない。麻もおるし、家康も貴様に付かせる。ゆっくりと京に入れば良いと言っておるだけだ」
「......................」
「それに今夜の宴には貴様を連れて行きたい。その為にもここは俺の言う事を聞いて体調を整えよ」
「..............」
「ふっ、お得意のだんまりか?」
「.......だって.............」
これが我が儘だって事、分かってる。
足を引っ張りたいわけでもない。
でも、はい。と言ってしまえば、信長様は行ってしまう。
「体調が良くなれば、京で欲しい物を何でも買ってやる。ここは俺の言う事を聞いておけ」
「っ..................」
私に欲しい物なんて何も無いってこと、きっと信長様は分かってるのに........
私は、信長様を困らせてる.................
「じ、じゃあ、ぎゅっって、して下さい」
「そんな事でいいのか?知らぬぞ?京には貴様の好みそうな美味いものが沢山あるが、本当に良いのか?」
そんな試す様に聞いても、心は変わらない。
「はい。ぎゅっと、抱きしめて欲しいんです」
船酔い状態だから食べ物の話をされてもだけど、今は信長様の体温で安心させて欲しい。
「相変わらず欲のない奴だ」
ふわりと、駕籠に横たわった身体が少し浮いて、逞しい腕に包まれた。
「欲のない貴様にはオマケにこれも付けてやる」
「オマケ?....んっ」
オマケの意味は分からないまま、唇が重ねられた。
「んっ、.......」
ちゅっ、ちゅっっと、狭い駕籠の中で響く口づけの音に、大胆な事をお願いしたのだと分かり、顔が熱くなってきた。
「やっと、頬に色がさしたな」
ずっと心配そうだった信長様の顔も漸くいつもの悪戯な笑顔に変わり、長い指で私の頬を撫でた。