第28章 歯車
「構わん。貴様は船に酔うのだと、また新たな貴様を発見できた。今後は、貴様でも酔わん船に改良する。楽しみにしておけ」
「信長様.......」
私の頬を優しく撫で、楽しそうに話す信長様に感謝しかない。
どんな事も楽しみに変えてくれるあなたを、誰よりも尊敬しているし、愛してる。
「信長様、全ての用意が整いました」
京の港に停泊し出発の準備ができたと、家臣が部屋の外から知らせに来た。
「分かった.......」
綺麗な横顔は、キリッと前を見据える。
「船を降りる。貴様はそのまま俺に身を委ねておればいい」
「..............はい」
京まで、馬でどれほどかは分からないけど、これ以上は迷惑をかけてはダメだ。気をしっかりと持って目的地までは馬に乗せてもらおう。
覚悟を胸に信長様に横抱きにされ船を降りると、馬ではなく駕籠に乗せられた。
「っ、信長様?」
どうして!?
「その体で馬に乗せる事はできん。駕籠を用意したゆえゆっくりと来い」
「わっ、私は大丈夫です」
「無理をする必要はない。貴様は急いで京に入らねばならん予定もないしな......」
「本当に大丈夫です。お願いします。一緒に連れて行って下さい」
先程の変な夢のせいか、今は無理をしてでも側にいたい。
「空良、大丈夫な者は、かように青白い顔をしてはおらん」
心配そうに私の頬に指を滑らせる信長様の言葉は正しい。
「でもっ.....んっ!」
反論する前に、優しい”黙れ”の口づけが落ちた。
「っ......私................」
離れていく唇を、こんなにも名残惜しいと感じたのは初めてだ........