第28章 歯車
「信長様、オマケって.....何ですか?」
「あぁ、堺の商人達が使っておった言葉だ。ただで何かをくれてやる事らしい」
(※正確には、大正時代頃から使われている言葉らしいです)
「く、口づけがオマケ?」
「そうだ。得をしたな?」
「そっ、.....そうですね」
そんなドヤ顔で言われても........口づけは強請ってないし...........
でも、信長様の抱擁とオマケのおかげで、幸せな気持ちが広がって心が落ち着いた。
「もう、大丈夫そうだな」
信長様は私の頭をひと撫ですると立ち上がった。
「ど、道中お気をつけ下さい。あと、....あの、...ありがとうございました」
「ふっ、貴様もくれぐれも無理はするな。では、夜に会おう」
ヒラリと馬に跨ると、待っていた家臣達を連れて信長様は港を出発した。
「さっ、空良様、私達も出発致しましょう」
横たわる私の身体に着物を一枚掛けると、麻は駕籠の引き戸を閉めた。
駕籠が動き出すと、また眠気が襲ってきた。
眠るのが怖いと思うのはいつ以来だろう?
眠る時はいつだって信長様の腕の中で安心していたから.......
一人で眠りに落ちて、先程の夢をまた見てしまったらと思うと怖くて瞼を閉じられない。
けれども、体は何故か眠れと言っていて......
「信長様......」
信長様に頂いた温もりを感じながら、重くなる瞼を閉じた。
何故、船酔いなんかをしてしまったのか......
何故、我が儘を通してでも信長様の馬に乗せてもらわなかったのか......
歯車はいつの間にか狂い始めていて.......
この時の私は、まだその事には気がついてなかった。