第28章 歯車
『姫様早くお逃げ下さい!』
もう一人の侍女が私を背中に庇い懐剣を手に逃げろと言う。
『い、嫌っ!一緒に逃げ........』
逃げようって言う前に侍女は斬られ、ドサっと目の前で倒れた。
『きゃあっっ!!』
人を、簡単に私の目の前で斬り捨てた男達は、震える私に血のついた刀をチラつかせながら、乱暴に私の顔を掴んだ。
『おいっ、確かにこの女だな!?』
『ああ、煤で汚して粗末な身なりをしているが確かにこの女だ間違いない』
『よしっ、このまま連れて行くぞ。あの方がお待ちだ。傷をつけるな』
..............あれっ?こんな場面、............あったっけ?
ここは確か、私も斬られそうになって、そこで顕如様が助けてくれたんじゃ.......
『来いっ!』
『嫌っ!離してっ!』
『手荒にされたくなければ大人しくしろっ!』
『いやっ!』
「いやっ!離してっ!」
「空良っ」
「やっ!やめてっ!」
「空良っ、大丈夫だ、俺だっ!」
「いやっ、!」
「空良っ!!」
「............っ、.......................え?................あ、信長....様?」
目の前には心配そうに私を覗き込み、私が無意識に伸ばした手を握る信長様の姿....
「かなりうなされておったが、嫌な夢でも見たか?」
「.............夢?......あ.......私、夢を.........」
何て嫌な夢を今頃........でも、私の記憶とは少し違っていた......?
「案ずるな、ただの夢だ」
手を強く握り、頭を撫でてくれる信長様の手に安心感が広がって行く。
「あ、はい.........すみません。私......」
起きようとするけど、体に力が入らない。
「良い、無理はするな。間も無く京の港に着く。俺が連れて行ってやるゆえそのままでいろ」
「すみません。大切な日なのにこんな事になってしまって.....」
寝てはみたものの、気分は全く良くなっていない。というよりは、急性的であった症状が、慢性的に変わった感じだ......