第28章 歯車
「......ごめんね、麻。迷惑をかけて」
せっかくの豪華な船室で、吐き気を堪え横たわる私.......
「何をおっしゃいます。白湯をお持ちしましたが飲まれますか?」
私の背中をさすりながら麻は白湯を勧めてくれたけど、それがまた私の吐き気を誘った。
「っぐ!.........ごめん麻、気持ち悪くて、飲んでもそのまま吐いてしまいそう」
もう吐くものなど、お腹の中には残っていないのに、一向に気分は良くならず、船酔いを初めて経験した私はどうすればいいのか分からない。
「それではいつでも飲めるように、ここに置きますね。あと半刻程で着くそうです。もう暫くの辛抱ですわ」
「うん。.........ありがとう」
港からだって移動があるのに、こんなに気分が悪くて馬に揺られる事ができるんだろうか?
肝心な時にこんな、足を引っ張るような体調になってしまうなんて、情けない。
とりあえずこの吐き気を何とかしないと....
「少し眠れば落ち着くかも。着くまで眠るので起こしてくれる?」
寝不足も原因の一つなのかもしれない。でも、こんなに何かに酔ったことは初めてだ。
「では、私は近くに控えさせて頂きます。ごゆっくりお休み下さいませ」
「ありがとう.............」
どんな体勢をしていても船の揺れは続いていて、私の更なる吐き気を誘ってくる。
ただ、酷く眠気があるのも確かで、私は引き込まれるように眠りに落ちた。
・・・・・・・・・・
『きゃあ!姫様っ!』
目の前で、鮮血が飛び散る。
ほんの今まで息をして動いていた侍女はもう、土の上に倒れて動かない.......
『ひっ!!』
様々な恐怖が一瞬で脳裏を駆け巡り、私は目の前の光景にただ震えて立ち尽くす........
これは.........、あの日、私が最後に見た光景......
侍女二人に引き摺られるように屋敷を逃げ出し、途中の山道から燃えて崩れ落ちる屋敷を見た直後、追手に見つかった私と侍女二人のうち一人目が目の前で斬り殺された。