第28章 歯車
〜そして早朝〜
「空良、起きよ。ここからは船で移動する」
信長様の馬に乗せてもらい城を出た私は、いつの間にか眠っていたらしく、信長様の声に起こされた。
「あっ、すみません。私、寝てしまって...」
「構わん。だが昨夜はさほど無理はさせておらん筈だが.....」
逞しい腕の中に私を閉じ込めたまま、愛しい人は私の耳元で悪戯に囁く。
「の、信長様にはそうかもしれませんけど......」
信長様の熱量を毎晩受け止めるのは、本当に体力勝負で.......しかもぐずぐずに蕩けるまで愛されてしまうから、そこから身体を正気に戻すのは結構大変なのに.....
それに、無理させるさせない云々の前に、早朝出発の時くらいは早く寝てはどうなのかと問いたい!
「それにしても、最近の貴様はよく寝るな。心なしか身体も温かい。まるで童のようだな」
私をすっぽりと包み込むように抱きしめると、揶揄いの言葉を口にした。
「もう、童は酷いです!.......でも、確かに最近は何だかいつも眠くて.....春先だからでしょうか?」
「春眠暁を覚えずか?暖かくなってきたしな。だが、今日はこれより近淡海を船で渡って京へと入る。ここで乗り換えだ」
信長様は素早く馬から降りると、私に手を伸ばして降ろしてくれた。
「船で、京へ?」
目の前には、いつか信長様と見学をさせてもらったような立派な船が停泊している。
「その方が貴様の身体にも負担が掛からぬし、早く移動ができる」
「わぁっ!私、初めて船で近淡海を渡ります!」
「京まではさほど時間はかからんが、暫し船旅を楽しむとするか」
「はいっ!」
眠気は一気に吹き飛んで、繋がれた手に引かれながら立派な船内へと入った。
皆が乗り込み、縛ってあった縄が外されると、船は緩やかに進み出した。
「こんな立派な船に乗せて頂けるなんて夢みたいです。信長様、ありがとうございます」
連れて行かれた船の先端で、信長様にお礼の気持ちを伝えた。
「貴様は本当に童のようだな。はしゃぎ過ぎて、船から落ちるなよ?」
「はい」
きっと素敵な船旅になる。
そう思っていたのに..........
「.........空良様、大丈夫ですか?」
まさかの、船酔いをした。