第27章 逢引き
「次は、いよいよ天主.........」
自分の過ごす場所であり、大好きな人のいる場所なのに、何故かじとっと手汗が滲む。
「緊張されてます?」
動きがぎこちなくなった私を見て麻はくすりと笑った。
「あ、うん。何か、........何でだろう?」
日中会えるのは嬉しいし、この打掛のお礼も言いたいけど........
「あの、私一人で持って行けるから、麻は先程の部屋に先に戻って待っててくれる?」
緊張の理由は、信長様の過剰な接触癖........
所構わず触れてくる信長様との口づけとかを人に見られるのはちょっと.......、いや、大体において見られてはいるのだけど......、(気付けば人がいたとか、影から見られてたとか)
でも、それとはまた気持ち的に違っていて.......麻に見られるのはできれば避けたい。(光秀さんはどうすれば良いのかは考え中)
「あら、それでは練習になりませんわ。お供いたします」
「え、あっ、.......うん。」
うう....阻止ならず!
他に理由も思い浮かばず、かと言って本当のことを話して下がってもらう勇気も持てず、私達は差し入れのお茶を手に天主へと向かった。
「空良、もう天主に戻るのか?」
天主へと繫がる廊下で、光秀さんに会った。
「光秀さん。もう信長様との打ち合わせは終わったんですか?」
(と言う事は、光秀さんに見られる心配はなくなった?)
「ああ、少し前に終わった。お前達はどうした?」
「あ、私達は皆にお茶の差し入れを......今から信長様と光秀さんにお持ちしようと天主に向かう所でした」
「そうか、気が効くな。ちょうど喉が渇いていた所だ。今ここでもらおう」
「あ、ならば私が....」
「気にするな、自分でできる」
光秀さんは私を静止すると麻の持つ膳へと手を伸ばし、自分でお茶を湯呑みに器用に淹れて手に取った。
ごくごくと、所作は綺麗だけど男らしく飲み干し、その湯呑みを再び麻の持つ膳へと置いた。
こうして見ると、麻と光秀さんは美男美女でとてもお似合いだ。間者とその上司とは思えないほど絵になる。