第27章 逢引き
「三成君いる?空良だよ?」
返事を待つ事少し.........予想通り、答えはない。
「書物に夢中になってるかなぁ」
書物や戦術書を読み始めると時間を忘れて夢中になる三成君は、いつも秀吉さんに引きずられるように朝餉に来ているから、今もきっとそうに違いない。
「三成君ごめんね。勝手に入るよ?」
一言断りを入れ、麻に襖を開けてもらい中へと入る。
「..........あれ?いない」
いると思っていた所に三成君の姿はなく、書物の山に埋もれているのかもと確認をしても、埋もれてはいなかった。
「いらっしゃいませんね」
「うん。忙しいし仕方ないね。またの機会にしようかな」
「畏まりました」
はしたないと思いつつも、中々入る事のない三成君の部屋を見回す。
あちらこちらに、所狭しと沢山の書物や書類の山があり、勤勉さが伺える。
「ふふっ、文机の上も書物だらけ」
積み上げられた書物が傾き崩れ落ちそうになっているのが気になり、文机へ行き整えた。
(ん?)
その文机の上にある紙に書かれた文字の中に、私の名前を見つけた。
悪いとは思いつつも見ると、そこには、京での私の安全な過ごし方の提案がいくつか書かれている。
「これ、私の為?」
“妙覚寺”とは、京での宿泊寺なのだろうか?
その妙覚寺での過ごし方や、公家や大名衆やその姫君と会った際の立ち居振る舞いや、上手な逃げ方など、様々な事が書かれている。
「さすが三成様ですね。公家達との交流などないでしょうに、よくここまでお調べに.....」
私の横から覗き込んだ麻も感嘆の声を漏らす。
「そう言えば、麻は何故お公家様の事に詳しいの?」
間者の任務とは、公家の内情にまで詳しいのだろうか?
私に京でのしきたりなどを教えてくれるとは、少なからずそう言った知識があると言う事だよね?
「ふふっ、その内分かりますわ」
優雅に美しく笑う麻に一つの考えがよぎったけれど、それを聞いていい程の関係はまだ築けていないから、私はその思いを飲み込んだ。
色々と私のために準備をしてくれている三成君に一言お礼を言いたくなり、三成君の文机の紙と筆を拝借し、”お仕事お疲れ様。お茶良かったら飲んでね。空良”と書いて、お茶と一緒に置いて部屋を出た。