第27章 逢引き
「や、やっぱりこんな豪華な打掛似合ってないよね。本当の事言ってくれてありがとう。似合ってるって言ってもらえるように頑張るね」
もう、えへへ...と、笑って誤魔化すしかない。
「っ、打掛は.....まぁ、悪くないんじゃない?ただあんたの顔が引き攣ってるから、無理してるのばればれだって事」
言い過ぎたと思ったのか、家康は再び口を開き目線を逸らした。
「あ.........うん。打掛、全然慣れてないから、だから練習したくって......って、本当は練習しないんだっけ?やっぱり本物の姫様ってすごいよね。あははっ.......」
こんなにわか仕込みの姫なんかじゃ、やっぱりお里が知れると言うものだと言われたみたいで、自分でも、今の笑いには無理があるのが分かった。
「はぁ、落ち込まないでよ鬱陶しい。こんな事位で落ち込んでて、あんたこの先やっていけるの?公家衆の嫌味はこんなものじゃないよ?」
家康は分かりやすくため息を吐くと、お茶を一口飲んだ。
「どう言う意味?」
「俺が、今川の人質だった事は知ってるでしょ?」
「......うん。少しだけ、聞いてるよ?」
「今川家は足利家の分家で言わば武家で、公家の流れは組んでいなかったけれど、名門である事を誇示するため、京の文化をより多く取り入れていて、公家の様な装いや行事、言葉遣いを用いてた。実際公家衆の出入りも多かったしね。だから分かるんだよ。あんたが京に行ったら、嫌な思いをするって事が.......」
「家康........」
「そんな無理をしなくたって、信長様の元にはいられるでしょ?あの人、あんたに夢中だし、あんたの為なら何だってしてくれそうだけど.....」
きつい言葉と態度は、家康なりに心配をしてくれているからだと分かる。
「心配してくれてありがとう。私も正直言うと怖いけど、成り上がるって決めたから......」
「は?成り上がるって、何?」
私の言葉に、家康は目を瞠る。
「ふふっ、信長様が尾張の国からここまで力をつけて大きくなったみたいに、私も名も無い領主の娘から成り上がってみんなに認めてもらうって決めたの。今は、安土城の女中だから、越前の誰も知らない領主の娘からは少しは上がってるでしょ?」
お城勤めは女子にとっては憧れの職業だもの。かなりな出世だ。