第27章 逢引き
「あっ、麻さん、じゃなくて、麻の初恋はどうだったの?」
もう恥ずかしすぎて、話を逸らそうと麻に話題を振ってみた。
「ふふっ、私の初恋など....もう昔のことすぎて、忘れてしまいましたわ.....」
「そんな事ないでしょ?どんな方だったんですか?」
こんな綺麗な女性が恋に落ちる殿方って、どんな方なんだろう?
「......さぁ、どんな方......だったんでしょうか?間者となったこの身にはもう思い出す事も許されません」
「麻............」
何だか、触れてはいけない話だった?
先程自己紹介をしあった時、遊女屋に売られそうだった所を光秀さんに助けられて、間者となったと言っていた麻.....、その麻の目が、気のせいか悲しげに揺れた様な気がした。
「さっ、私の話はお終いにして、折角ですからその打掛を着て城内を散策致しましょう」
「は、はい」
「敬語禁止です!」
「あ...、そ、そうね行きましょう」
顕如様に助けられたあの日、蘭丸様がお口添えをして下さらなければ、私も今頃は顕如様の間者として働いていたのかもしれない。そう思うと、信長様との今はやはり奇跡の様だ。
その奇跡を手放さない様に、今は前を向いて頑張るしかない。
・・・・・・・・・・
「うぅ〜、それにしても、打掛って歩きづらい」
年末年始の時は、天主から広間までの往復位で、後は座っていれば良かったけど、いざこれを着て行動するとなると、すぐにつま先が引っかかりそうになり結構大変だ。
「すぐに慣れますわ」
「そうだと良いけど........」
着慣れるといっても、ただ文字通り着ることに慣れれば良いってもんじゃない。
今後正式な席に出る事が増えれば、この姿のままお客様や信長様に膳を運んだりもするかもしれない。それに優雅な身のこなしも必要で:........
母上は普通に着こなしていたけど...... やはり最初は手こずったのだろうか?
今になって、母上に聞きたいことが沢山あるけれど、それはもう叶わない。せめて夢で会える事ができたのなら、色々と教えてもらえるのに....
「あっ、そうだ!折角なら練習がてら、皆にお茶を持っていこう!」
そろそろ喉も乾く頃だし、丁度いいかも!
「いいお考えですわ。では早速、ご用意致しましょう」