第27章 逢引き
「さっそく羽織ってみましょう。さっ、空良様」
打掛を大衣桁から外した麻さんは、私の肩に打掛を掛けてくれた。
「あ、ありがとうございます」
手を通した打掛は、やはりふわりと軽くて着心地がいい。
もう、数え切れないほどの着物を贈られて来たけど、いつもどれも着心地が良くて、私の肌は甘やかされ放題だ。
「とてもお似合いですわ」
「ありがとうございます」
私が打掛に袖を通し終えると、麻さんはスッと後ろへ下がり腰を下ろして頭を下げた。
「改めまして空良様。これより空良様の侍女として誠心誠意お勤めさせて頂きます。短い期間ではありますが宜しくお願いします」
「は、はい。麻さん、宜しくお願いします」
急に畏まられ、私も慌てて腰を下ろし居住まいを正して頭を下げた。
「ふふっ、空良様、それではいけません」
「え?」
「私の事は麻とお呼び下さいませ。敬語もいけません」
「でも、」
「私は空良様の侍女です。遠慮はいりません。それに、慣れて頂かなくては困ります。京には、そう言った事でも直ぐに揚げ足を取ろうとする者が大勢おりますので..........」
「はい.......」
確かに、小さな領地の姫であった私にでも侍女はいて、その侍女に敬語なんて使ってなかったけど.......、
「京とは、そんなにも恐ろしい所なんですか?」
信長様もそうだけど、皆口々に京のしきたりや人々の態度が厳しいと言うから、そんなに言われると、覚悟を決めていても構えてしまう。
私が京に行ったのは、あの本能寺の一度だけ。
復讐心しかなかったから、記憶は曖昧だ。
「怖がらせてしまいましたね。ですが心配は要りません。そういった者たちから守るのが私の役目ですし信長様もおります。そしてそうならない様、色々と今から覚えて頂きますから」
麻さんはふわりと微笑んだ。
「はい。宜しくお願いします」
「ふふっ、ですから敬語はおやめ下さい」
「あ、......」
「まず、私との会話に慣れて頂くことから始めましょうか。お互いの事を話し合い色々分かり合う事で、信頼も築けましょう」