第27章 逢引き
広間を出た私と麻さんは、信長様に指定された部屋へと移動した。
ここは、依然信長様と恋仲になったばかりの頃に仲違いをして一夜を過ごした部屋。
あの後も、何かの時には使えと言って私に与えて下さり、小物作りの依頼品を置いたり、小夜ちゃん達とのお茶休憩に、時々使わせてもらっている。
「................あれ?」
いつも通りに部屋へと入ると、見慣れない打掛が掛けてある。
「何だろう.........?」
見事なその打掛を手に取ると、その手触りの良さと見事な刺繍に思わずほぉ〜っとため息が漏れた。
「まあっ、信長様ったら....」
あまりの手触りの良さに何度もスリスリしていると、私の後ろに立つ麻さんがクスッと笑い声を上げた。
「どうしたんですか?」
「ふふっ、信長様の空良様へのご寵愛は聞いておりましたが、聞いていた以上で微笑ましくてつい.....」
笑い声も優雅な麻さんは、見事な黒髪を揺らしながら笑う。
「?」
「この打掛は、空良様へ信長様からの贈り物でございます」
「えっ?.......どうしてそう思うんですか?」
急に?それにこんな立派な物...........いや、いつも急な方ではあるけど.....
「私がお願いをしたからです」
「麻さんが?」
「まず手始めに、打掛に着慣れて頂く必要がございましたので、失礼ではございましたが、お持ちでいらっしゃらないといけないと思い、ご用意下さいと信長様にお伝えしたのです」
「そうなんだ。........でも、打掛なら、年末年始の宴様にご用意頂いた物があるのに......」
あれだって、京からわざわざ取り寄せてくださった豪華な物で............
「まぁ、そうだったのですね。私も、練習用でと言う意味でお伝えしたのですが........、さすが信長様でございます。練習用には豪華すぎますがこれを使わせて頂きましょう」
「は、はい」
信長様はここにはいないけど、「頑張れ」と言う声が聞こえて来た気がする。
「私、頑張りますね」
小さな声でそっと呟いて、掛けてある打掛に口づけた。