第27章 逢引き
「本日より、空良様の侍女としてお仕えさせて頂きます。麻と申します。宜しくお願いします」
いつも通り、広間にて集まった武将たちと共に朝餉を済ませた私は、そのまま広間に残るよう信長様に言われ、待つ事少し........
朝餉には姿を見せていなかった光秀さんと共に、黒髪の妖艶な美女が広間へと入ってきて、私の侍女だと挨拶をした。
「えっ?あっ、あの..............えっ?」
突然の事に驚きを隠せず信長様を見ると、脇息にもたれククッと楽しそうに笑っている.....
「予想通りの反応だな。飽きん奴だ」
「だって........」
急に侍女って......
「京行きに向けての準備の一環だ。貴様は一通りのことは何でもこなせるが、京独自のしきたりや公家の作法などを学んでおく事に越したことはない」
「あ........」
そう言うことか......。
信長様と将来を共にすると誓い合ってから数日が経ち、京の祝賀会に出られる信長様に伴って私も京に行く事になった為、その準備が着々と進められていた。
「空良です。宜しくお願いします」
侍女なんて、私には勿体ないと言おうと思ったけど、私が知識不足なのは一目瞭然。この機会に色々と学ばせてもらおうと思い、信長様のご厚意に甘える事にした。
「勿体ないお言葉でございます。祝賀会までの短い期間ではございますが、精一杯務めさせて頂きます」
私よりも、信長様の横にはこんな女性がふさわしいのではと思うほどの色香を放つ麻さんは、にっこりと微笑み、再度頭を下げた。
「空良、麻は普段は俺に仕える間者だ。遠慮せず何でも教えてもらえ」
麻さんの斜め前に座っていた光秀さんがいつもの如くニヤリと口角を上げた。
「あ、はい。ご協力頂き、本当にありがとうございます。頑張ります」
「以前貴様に与えたあの部屋を、しばらくは学び舎として使い良く学ぶが良い」
信長様も穏やかに背中を押す言葉をくれる。
「はい。私、頑張ります」
「ふっ、そうリキまずとも、貴様の速度で焦らず進めば良い」
ぽんぽんっと、大きな手が私の頭を撫でて、安心をくれる。
「はい」
信長様が私に示してくれた新たな道。
一人じゃ無い。二人で共に進む道へのその一歩が、ついに始まった。