第26章 共に歩む道
「ふっ、俺に嘘をつきその身を危険に晒した事については仕置きものだが........これが夢かどうかは、貴様自身で確かめろ」
「えっ、......っ」
大きな目は更に真ん丸に見開かれ、そんな空良に見惚れながら、夢ではないと分からせるように長い口づけを落とした。
数え切れないほど口づけてきたこの唇は、未だ遠慮がちに俺に合わせようとたどたどしく動き、俺を煽る。
「..............んっ....」
夢中で口づけていると、奴が息苦しさを訴えきた為、名残惜しくも唇を離した。
「......どうだ?」
「ゆ、夢じゃあ、ありません」
トロンと夢見心地の様に蕩けた顔をした空良は、顔を赤くしながら俺に答えた。
「そうか......」
・・・・・・・・・・
許婚であった嘉正の出現により、空良の俺への真っ直ぐで、そして脆く危ない心の内を偶然にも聞いてしまった今、このままにはしておけなくなった。
嘉正に指摘された通り、有力な大名の姫や大臣縁の姫との婚姻を望む声は、内外共に大きい。
だが誰もそれを口に出して俺に進言して来なかったのは、俺が誰も側に置かず、女を快楽の道具としてのみ扱ってきたからだ。
しかし、空良と出会い側に置いた事で、逆に奴等に希望と言う光をもたらしたのだろう。
他の姫でも行けるのではないか......と。
確かに、俺の妹達は皆、織田軍の為に有力な大名の元へと嫁がせた。それを強いて来た俺が、名もない領主の、しかも滅びた武家の娘である空良を正室にするなどと言う事に納得するものは僅かだと言う事も理解している。
だが......
「俺は貴様しか欲しくはない」
深い眠りにつく空良の髪を一房手に取り口づける。
無理矢理手に入れた女が、今は俺に愛を囁き愛らしく微笑む。
そんなたわいも無い日常を手放す事などもはや不可能だ。
意見を押し通すのは簡単だが、それでは空良を傷つける。
空良を知らない奴らは、空良にどれ程の政治的価値があるのかでしか見ようとはせぬ。
空良もその事は誰よりも分かっておるのだろう。だから奴は、俺が妻にすると言っても側室になるのだと、勘違いな覚悟を決めていた。